第五回 「ザプコDSPの紹介」
極!石田塾
2019.09.12
春先に現物だけはちらっと見て気になっていた商品が、ようやく発売されそうな気配なので、ここで紹介しておきます。それはザプコのHDSP Vシリーズ。ハイレゾ再生対応のプレーヤーを内蔵したDSPです。価格は35万円(税別)。結構な高額ですが、ブラックスDSPが82万円ということを考えると、お買い得に感じてしまいます(笑)。
このモデル、音楽ファイルを貯めたUSBメモリーを差して、その音楽を再生できるのが自慢です。つまりプレーヤー内蔵。これまでプレーヤー内蔵のDSPはエタニのETANI-1しかなく、他のDSPは別途プレーヤーが必要でした。ポータブルのDAPだったり、カナリーノのような車載コンピュータだったり。これ、システム的には配線がぐちゃぐちゃになったりして見た目にもよろしくないし、ポータブルDAPが何十万円もしたりしてコスト的にも厳しかったのですが、プレーヤー内蔵だから他の機器は不要。これは助かります。いま、ハイエンドなカーナビは30万円近くしますが、ナビは純正のままでいいからとにかく音を良くしたいと考えるなら、十分に射程圏内なのではないでしょうか。
輸入元のエムズラインのサイトを見てみると、写真が2点と各35万円(税別)という価格が載っているだけで、細かいことは近日中に公開と書かれています(9月4日現在)。そのため、本国のZAPCOのサイトを見てみると、本体は16チャンネル分の出力を持つHDSP-Z16Vと出力が8チャンネルのHDSP-Z8Vの2モデル。これは日本と同じです。ほかにaptXに対応するハイレゾ対応のbluetoothモジュールも載っていますが、日本にはまだ現物が届いていないし、それから技適などの手続きがあるため、日本での発売は遅れそうです。
基本的に、この2機種は同じチップを使っています。そのためハイレゾ音源への対応は、HDSP-Z16Vが最大96kHz/24bitに対し、HDSP-Z8Vは最大192kHz/24bitまでネイティブで再生できます。つまり8チャンネルで十分だから音が良い方がいいならHDSP-Z8V、8チャンネルだとチャンネル数が足りないというならHDSP-Z16Vということでしょうね。個人的には16チャンネルも要らないからシンプルに良い音を求める方向でHDSP-Z8Vをおすすめしたいところですが、それは自身のシステム構成に応じて選んでください。
気になったのが、A/DコンバーターやD/Aコンバーター。スタンダードの他にオプションが用意されているんです。DACはスタンダードがAKM(旭化成)のAK4485というチップですが、オプションAを選ぶと、AK4490にグレードアップ可能。またオプションBを選ぶとESS社のハイエンドDAC、ES9038PROに代わります。中国製ですが、ホーム用のOPPO Digitalの製品などで評判の良いDACだし、車載用にはまだ使われていないDACだけに楽しみです。ただし、ES9038PROは8チャンネル対応ではないと書いてあります。エムズラインに聞いたところ、ES9038PROは4チャンネルのチップなので、2枚必要なのではないかとのこと。それなりに料金は高くなりそうです。
また、今の所、すぐにはオプションに対応できないとのこと。このあたりは、エムズラインのサイトを細かくチェックしてみてください。
DSPに関しては、イコライザー、クロスオーバー、タイムディレイの調整が可能。また位相調整用の正確なオールパスフィルターを搭載しているのが自慢です。動作周波数を1Hzの精度で変更でき、位相シフトも1度単位で変えられるようなので、調整は難しそうですが、これまでにない調整の可能性を持っています。まだ英語の資料しかなく、使ってみたこともないので、この辺は日本語の資料を読むか、実際に触ってみて確かめたいところです。
電源が5.5Vまで落ちても動作できるので、アイドリングストップ車でも安定した動作を実現。このあたりは、最新の機器ならではです。まあ、組み合わせるアンプなど他の機器が、電圧が落ちたことで止まってしまえば音が出なくはなるんですが、少なくともDSPは安定して動いています。純正オーディオとの親和性も充実。「OEMシステムの低周波数でのレスポンスを復元」とのことですが、ちょっと意味不明。ただ、もう一つの革新性を持っているとのことなので、期待したいところです。
なにはともあれ、USBメモリーに貯めた音楽ファイルをダイレクトに再生できるプレーヤー機能を持っているのが魅力的。読み込めるファイルはWAV、AIF、AIFF、FLAC、ALAC、AAC、MP3と圧縮音源から非圧縮音源まで、多岐にわたっています。さらに音声入力も充実。デジタル入力は光と同軸の両方あり、アナログ入力も装備しています。なので、純正など既存のオーディオを繋ぐこともできるし、ポータブルDAPがあれば、それを繋いでもOK。まあ、USBメモリーに音楽を貯めて挿せばいいだけなので、そっちのほうが断然楽かと思いますが。
USBメモリー内の音楽ファイルの選曲操作は、付属のコントローラーでできるそうです。このコントローラーは3インチディスプレイを搭載。10個の調整をメモリーできて呼び出したり、デジタル/アナログの音楽ソースを切り替えたりもできます。もちろん、音量調整もできるんでしょうね。デジタル機能の調整は、パソコンをつないで行います。
なんだかんだ言って、もうヘッドユニットを自由に交換できる時代はそろそろ終わりに近づいていると思っています。国産車だと、まだどうにかなるクルマは残っていますが、輸入車のほとんどは、純正ヘッドユニットを外すとクルマが動かなくなるため、それをトランクの隅に隠したりして市販ヘッドユニットに変えるなど、苦労していますからね。だから、純正を残したまま音質の向上を図るというのが、これからのカーオーディオのスタイルとなるでしょう。
そんな時はDSPを加えるのが定番になりそうですが、そんなDSPにプレーヤー機能があるかないかはとても重要になると思います。プレーヤーを内蔵していれば、ポータブルDAPなどへの出費は抑えられるし、システム的にもスッキリしますから。たかがプレーヤーと侮ることなかれ。まだ音を聴いていないので、その実力はなんとも言えませんが、ザプコのHDSP Vシリーズは新世代のDSPとして注目に値する存在と言えるでしょう。