第十七回「続カロッツェリアの新PRSスピーカー」
極!石田塾
2020.09.05
前回お伝えしたカロッツェリアの新型PRSシリーズ。注目度が高いようなので、今回も引き続き新PRSシリーズの話題をお伝えします。今回は開発の裏話、および車載状態でのレビューを。
このPRSシリーズの中心技術であるCSTドライバーは、実は10年以上前から構想が練られていたそうです。定年退職した豊田さんが、まだパイオニアにいた頃です。その時は試作機を作った段階でお蔵入り。今よりサイズが大きく、そのサイズがネックになったようです。
豊田さんといえばカロッツェリアXでユーザーには知られていますが、実は初期のカーナビの企画に参加したり、全盛時代のカロッツェリアの中心にいたアイディアマン。カーナビは、今のサイバーの前。サテライト・クルージング・システムと言っていた頃だから、かなり古いです。
また1回目のパイオニア・カーサウンド・コンテストの時も、ご自身の愛車(シーマだったかな?)を持ってきて、ドライバーに合わせて左右非対称にツィーターを装着したクルマの音を嬉しそうに聴かせてくれたのを覚えています。オーディオが大好きだったんですよね。このようにヒット商品の裏には、いかに熱く製品開発に情熱を燃やす人がいるかが重要なんだと実感します。
そんな豊田さんが目をつけたCSTドライバーの良さを知り、どうしても車載で世に出したいと動いたのがT井さんです。実は、車載用CSTドライバーの原型(?)を僕が初めて目にしたのは2年前のこと。緊急入院したのが8月17日で、その1ヶ月くらい前のことだったので良く覚えています。
その時は、カスタムフィットスピーカーのFシリーズの取材で天童の東北パイオニアへ伺ったのですが、天童駅に着いた時に迎えにきていたT井さんが「意見が欲しいので聴いてもらいたい」ということで、駐車場に停めているT井さんの愛車に乗り込みました。その時は車内コンテストに出すので、アドバイスが欲しいということだったと思います。そのクルマに搭載されていたのがCSTドライバーです。
TAD用のドライバーをダッシュボード上に装着していたので、やはりデカい(笑)し目立つ。それでも音場感は素晴らしく、さすがTADと思ったものです。その時は、新PRSスピーカーを開発中で、それが車載用になるとはまったく知らなかったので、バランスについていくつか意見を述べて終わりました。さすがに大きすぎるから車載には向かないし、このまま出したとしても一部のマニア向けに止まるだろうと思ったので、その時は趣味でやっているのだろうと思ったのです。
ところが新PRSの開発は着実に進んでいたようです。もちろんこのままでは出せないのでコンパクト化が必須。ただ小型化に関しては「CSTドライバー本来の性能が出せない」とのことで反対意見もあったようで、RSスピーカーを作ったS浦さんも当初は反対だったそうです。理由は「CSTドライバーが持つ本来の性能は出せない」というのが理由ですが、そりゃそうですよね。TADのCSTドライバーのポテンシャルを知る技術者としては、ポテンシャルを落とすのは許せないんだと思います。その気持ち、よくわかります。
しかし、CSTドライバーの魅力をよりお求めやすい価格で世の中に広げたいという使命のもと説得を続け、社内コンテストでもCSTドライバーを搭載したT井さんのクルマが優勝し、結果的にはGoサイン。そこからはRSスピーカーの技術者も協力して作り上げたのが、今回のPRSスピーカーです。ここでもT井さんの「絶対に出す」という熱意が身を結んだんでしょう。
ただTADのCSTドライバーは、ツィーターとミッドレンジに高価なレアメタル、ベリリウムの振動板を使っているのに対して、PRSシリーズのCSTドライバーはアルミのバランスドーム・ツィーターに2層構造のカーボン・ミッドレンジを組み合わせているため、どうしてもクオリティ面で見(聴き)劣りするかも? という心配はありました。それはデモカーで車載状態で聴いてみて、無駄な心配だったことがわかりました。クルマでは振動板の素材といった細かいことより、CST方式を採用すること自体が重要だったのです。
やはりスピーカーにとって「点音源」はとっても重要で、特にスピーカーの取り付け場所に制約が多いクルマではかなり効果があります。いくらタイムアライメントで耳に聴こえる時間を合わせたとしても、ツィーターとミッドレンジの取り付け場所がずれていれば、位相のズレがどうしても生じてしまうし反射波もずれてしまいます。ところがCSTドライバーなら構造的に位相のズレが生じないので、正真正銘の点音源。これが自然で滑らかな音を生み出す秘密です。
そして中高域をダッシュボードより高い位置で再生できるのも、クルマにとっては大きなメリット。デモカーの場合、サイバーナビのクロスオーバーで800Hzより上の帯域を受け持つ設定でしたが、CSTドライバーの再生周波数帯域は173Hzから90kHzという超広帯域。ほぼフルレンジともいえる帯域をダッシュボードより高い位置の1点で再生できるのだから、これは画期的と言っていいでしょう。
その音は音場感がとてもリアルで、これまで車内では聴いたことがない感覚でした。これまでは、いくら綿密に調整されたクルマでもどこかの帯域に違和感があって、それが良くも悪くもカーオーディオという認識だったんですが、その違和感がまったく無いんです。この自然さと滑らかさが、新PRSスピーカーの真骨頂といえるでしょう。
位相が合っているおかげか情報量もたっぷりで、鮮度の高いサウンドが聴こえてきます。よく「レコーディング・スタジオの音」という言いかたをしますが、まさにそんな感じ。レコーディング中に調整室でモニターしたような、すみずみまで聴こえるような音を再現します。
面白いのは「あれっ? ちょっとこの音位相が変じゃない?」という音まで、すぐにバレてしまうこと。視聴中にちょっと古いアナログ・レコーディングの音源を聴いたんですが、キーボードの音だけ音場の外から聴こえてくるんです。後で調べたら、リミックス時にキーボードだけ後から足したようなんですが、そんなことまでわかるのにちょっと驚きました。
またCSTドライバーが広帯域を受け持っているおかげで、ドアのウーファーの負担が減ったのが功を奏しているのか、低音の情報量もたっぷり。デモカーでは630Hz、-18dB/octでクロスオーバーを設定していて、個人的にはさらに重低音を受け持つサブウーファーを加えたい気分なんですが(笑)ベースのピッチを安定して再現するあたりも、これまでのカーオーディオとはひとあじ違います。
このように、いろんな部分でこれまでのカースピーカーとは異なる新PRSシリーズ。音を聴くと、あまりに自然なので印象に残りづらいかもしれませんが、クルマで聴くとその良さが伝わってくるでしょう。もし試聴する機会があったら、ぜひ車載状態で聴いてみることをお勧めします。