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コラム

第十九回「リファレンス音源の有用性」

極!石田塾

2020.11.10

半年ほど前に書いた音楽の話が好評だったようなので、今回も音楽の話をしようと思います。僕が製品を評価するときにリファレンスに使う音源の話です。

リファレンス音源といえば、音質が良くて性能差がわかりやすい特別な音源という感じがしますが、僕の場合は普段聴いている音楽の中でお気に入りの曲を選んでいます。基本的には、ライブを観た体験があるミュージシャン。実際に観たか観ていないかはとても重要で、ライブで観た時の感動が伝わってくれば最高。音楽が鳴っているだけで感動が伝わってこなければ、そうではないと判断しています。僕が「死んだ音は嫌い」と言っているのはそういう意味で、どうせ音楽を聴くなら生き生きした音で聴きたいと思っています。

そういう意味で、このところリファレンスに使っているのは、上原ひろみが多いです。たとえばザ・トリオ・プロジェクトの1曲目だったり最新のソロ・アルバムだったり、エドマール・カスタネーダとのライブだったり、矢野顕子とのライブだったり。聴くのはロックが中心で、ジャズ系を好んで聴くことはなかったんですが、上原ひろみを聴くようになったのは、フジロックで彼女のステージを観てからです。

正直、サイモン・フィリップスのドラムスは音数が多すぎるしパタパタしていて、それほど好きなわけではありませんが(笑)、ステージ上の彼女の実に楽しそうなこと。彼女の音楽に対する姿勢はロックそのものです。ピアノの音が力強いし、ピアノのボディを叩くわ、唸り声をあげるわ演奏は自由奔放。その姿に惹かれました。エドマール・カスタネーダとのライブもブルーノート東京で観ましたが、ステージが近いので2人の熱気がそのまま伝わってきます。そんな熱気が伝わってくるかが大事だと思っています。

という意味では聴感上のダイナミックレンジがもっとも重視する点のひとつで、そのためにはまず音がクリーンであることが要件。ノイジーだと、細かい音や弱い音が埋もれてしまってダイナミックレンジが狭く聴こえてしまいます。静粛の中から突然飛び出すドラムスのアタック音とか耳をつんざくようなホーンの響き。そんな出会い頭的なハッとする瞬間が好きなんですね。だからレスポンスの良さも重視している点のひとつです。

リファレンスとして評価する上では、音数が少ないものを選んでいるような気がします。オーケストラをリファレンスにしている人も多いですが、僕の場合はほとんどクラシックを聴かないし、リファレンスに使用しても正直いって判断できません(笑)。だから、さらっと聴く程度で流しています。オーケストラをリファレンスにしている人を尊敬します。自分で聴く時には、やはり曲自体に思い入れを持つことが重要で、そんな曲を選んでいます。

最近、リファレンスに加わった曲はバルトロメイ・ビットマンの「ダイナモ」というアルバムの『ネプチューン』という曲です。ウィーン・フィルにも在籍するチェリストのバルトロメイとバイオリニストのビットマンのデュオです。この2人は、信頼しているTHE MUSIC PLANTという音楽事務所からの情報で知りました。弦楽器の2人だから、てっきりクラシックだと思っていましたが、YouTubeで観てびっくり。これ、プログレです。たった2人とは思えない迫力で、よいグルーブを作り出しています。ライブを観たことはないんですが、この熱気が伝わってくるとよいですね。

あと最近気に入っているのが、エイドリアン・レンカーという女性アーティスト。昨年、グラミー賞にノミネートされたビッグ・シーフというバンドのメンバーです。そのビッグ・シーフのワールド・ツアーが、今回のコロナ禍で中止になっている間に山小屋にこもり、デジタル・プロセスを一切使わずに録音したという『Songs&Instrumentals』というアルバム。鳥の声が聴こえてきたり、自然の中で録音している雰囲気が伝わってきてとても良いアルバムです。

僕が情報を得ているのは、音楽ライターの保科好宏さんだったり岩田由紀夫さんだったりするのですが、エイドリアン・レンカーは岩田さんのTwitterで知りました。毎日、今夜のおすすめを呟いていて、岩田さんが聴く音楽の幅が広いためピンとこないものもたまにあるんですが、必ずYouTubeでチェックするようにしています。以前はジャケットがカッコいいからと買ってみて聴いたら「失敗した〜」と思うことも多々あったので、今は好みの音楽が簡単に見つかるようになって良い時代です。

このように、信頼できるライターや評論家を見つけるのは、音楽好きとしてはとても大事。そして音楽をとことん聴いていれば「もっと良い音で聴きたい」という欲求も出てくるし、別のオーディオ・システムで聴くとどんな音がするんだろうという興味が出てきます。こうしてオーディオにハマっていくわけですね(笑)。

岩田さんは「ミュージシャンはレコーディング時にとても高額なプロ用機器で録音している。それに敬意を評してできるだけ素晴らしい機器で音楽を聴きたい」といったような趣旨の話をしていました。なるほど、と納得する反面、さすがに、それほどオーディオに突っ込む金もないよなぁ…と思うことも。そこまでオーディオに注ぎ込む気概があれば、ミュージシャン側もうれしいでしょうが、できる範囲で気に入ったものを選ぶくらいで良いと思います。

重要なのは、まず音楽をいっぱい聴いて音楽を好きになること。そして、気に入った曲が見つかったら、それをとことん聴き込むこと。これをリファレンスにすれば、オーディオ・システムを替えたときに違いが分かりやすくなると思います。音楽やオーディオの好みはパーソナルなものなので、音楽の趣味もオーディオの好みも人それぞれで違います。だからリファレンスはそれぞれ違っていていいし、好みの音もそれぞれ違っていていいんだと思います。

だから、他人に何を言われようが、自分で「この音が好き」と思えたなら、それが正解。他人があれこれ言っても、自分の好きな音が出来上がったら、それが自分にとっての良い音なんです。そんな音を見つけるためには、自分のクルマ以外にもうひとつ、音の良いシステムをみつけること。それは家のホームオーディオでも良いし、家になかったらどこかのお店のオーディオ・システムでも良いし、できればスピーカーが良いですがヘッドホンでもいいと思います。

自分のクルマの中だけであれこれ調整していても、途中でわからなくなって気づいたらとんでもない音になってしまっていることも十分にあり得ます。病気の治療でもセカンド・オピニオンというのがありますが、クルマだけで聴くのではなくほかのシステムで聴いてみて、耳をリセットするのはとても重要です。そして、何度も言いますが好きな音楽を好みの音量でガンガン聴く。これが好みの音に近づく最良の方法かと思います。

最後にイベントのお知らせを。11月29日にETANI ONEの試聴イベントでコルトレーンに伺います。特別公演&セミナーなんてたいそうなタイトルが付いていますが、難しい話は一切無し。そのへんはエタニ電機の新社長の鈴木さんにおまかせして、音楽をガンガン聴く楽しいイベントにしたいと思っています。コロナ禍のため、午前と午後の2回にわけて、各10名の少人数でこっそり行おうと思っていますので、ETANI ONEに興味を持っている人は、事前申し込みの上、気軽にご参加ください。

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